シリーズ5

− 「江戸大塚里六園館(おおつかのさとりくえんかん)全図写」 −

江戸大塚里六園館全図写
原画 岡本茲奘(しそう)天保11年(1840)
79.2cm×164.3cm国立国会図書館所蔵

 松平定信は、寛政年間(1789〜1800)に古文化財に関する図録である『集古十種』(全85巻)の編さんのため、絵師である谷文晁(ぶんちょう)・大野文泉(ぶんせん)・白雲(はくうん)らを全国各地に派遣しています。文晁を松島・塩釜に派遣した際には、珍しい石や植物などを模写させたり、持ち帰らせたりしており、定信には古文化財のコレクションとともに草木の※蒐集(しゅうしゅう)癖があったことが知られています。

 文化年間(1804〜18)に江戸大塚(現東京都豊島区)に造園した「六園」は、敷地約1万2千坪で、南湖や三郭四園(さんかくしえん)などのように泉水を中心とした庭園ではなく、高低差のある地形を利用して「集古園」「攅勝園(せんしょうえん)」「百菓園(ひゃっかえん)」「春園」「秋園」「竹園」の6つのゾーンから構成された庭園でした。

 掲載の写真は、この六園を※俯瞰(ふかん)的に描いた絵地図的な作品です。画面左側上部には御殿である「六園館」の建物と
「竹園」が描かれ、その右側には「集古園」があり、和漢の書画器財を収めた4つの石倉や『集古十種』の版木を収めた集古庫などが見えます。その下の「攅勝園」には、池の淵(ふち)に中国蘇州の柳・舶来黒船ツツジなど和漢舶来の珍草木が植栽されています。さらにその下段には「百菓園」が広がり茶亭小楽亭と、これを取り巻く半月池が見え、その左側には梅・桜・桃・楓(かえで)・ススキ・萩(はぎ)を植栽した「春・秋園」が広がっています。

 この六園は、古文化財を保管する目的や珍木異草、舶来の寄樹を集めた、文化財と植物園的性格を併せ持ち、定信の好古趣味が最も反映された特異な大名庭園でした。

蒐集・・・趣味や研究のため、いろいろと集めること。
俯瞰・・・全体を上から見ること。

教育委員会文化課学芸員 佐川庄司
       
前ページへ