シリーズ4

− 「浴恩園(よくおんえん)真写之図写」 −

浴恩園真写之図写
原画 岡本茲奘天保13年(1842)79.6cm×159.2cm国立国会図書館所蔵

 松平定信は、白河城三の丸に「三郭四園」、城下南郊外に「南湖」の二つを造園したほかに、江戸に三つの庭園を作庭しています。特に「浴恩園」は、定信の江戸での生活拠点である築地の下屋敷邸内に造園されたものです。
 浴恩園は、幕府老中を辞任した翌年の寛政6年(1794・37歳)ごろに完成した敷地約1万7千坪の広さを持つ池泉回遊式庭園で、現在の東京都中央区築地にある東京卸売市場の場所が、この浴恩園跡地にほぼ相当しています。
 掲載の写真は、この浴恩園を俯瞰的に描いた地図的な絵画作品です。右側には桜に囲まれた「春風の池」が、左側には紅葉に囲まれた「秋風の池」が配置され、春と秋の最も景観の良い場面が一つの画面に表現されています。これは浴恩園の特徴をより象徴的に演出したものです。
 春風の池の手前には、御殿が描かれて
いますが、ここが定信の日常的な生活の場であった「千秋館」という下屋敷の建物で、庭先には鉢植えの盆栽などが置かれています。秋風の池の左側上部には海水を江戸湾から取り入れる水門が見え、ここが潮入の池であることが分かります。そして、池の手前には様々な草木を植栽した御薬園、菊園、蓮池、梅林などが描かれています。この園内には、景勝地である「名所」52景が選定され、石柱が建てられていました。
 浴恩園作庭から35年を経た文政12年(1829)、神田から出火した大火は浴恩園のすペてを灰塵にしましたが、本作品からは定信の庭園趣味とともに江戸での生活の一端をしのぶことができます。
俯瞰・・・全体を上から見ること。

教育委員会文化課学芸員 佐川庄司
       
前ページへ