シリーズ9

−『 浴恩園(よくおんえん)真景図巻』− 文政5年(1822)ごろ
上巻39.8cm×747.7cm
下巻39.8cmX861.1cm
天理大学付属天理図書館蔵

 本作品は、松平定信の江戸下屋敷庭園「浴恩園」を白河藩主絵師星野文良(ぶんりょう)が描いた真景図巻で、上下二巻から成立しています。上巻には、園内の「春風の池」周辺の景観が9図、下巻には「秋風の池」周辺の景観が10図貼り込まれています。

定信は、自身の著書である随筆『浴恩園仮名之記』(よくおんえんかなのき)で、園内の名所51勝を紹介していますが、本作品もこの記述に沿って二つの池のまわりをめぐり歩く形で、場面が移り変わっていくように描いています。さらに、梅・桜・山吹(やまぶき)・蓮(はす)・萩(はぎ)などの花々を満開の状態で描き、現実にはありえない複合的な季節感を表現しています。

 これは、季節感を超越して名所の四季の情景を一瞬にしてイメージさせる表現手段です。

 樹木などの表現に見られる大和絵的な細やかな筆法と、岩場などに見られる漢画的(中国風)な筆法が見事に融合し、さらには西洋的遠近法も加味された画面は、文良の優れた技量がいかんなく発揮されています。定信に長く仕え、江戸画壇の重鎮となった谷文晁(ぶんちょう)の弟子であった文良は、師の風景画(真景図)様式を継承しつつ、さらに透明感のある風景画作品に仕上げています。


教育委員会文化課学芸員 佐川庄司        


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